CDを借りに来たのだが、ドアを開けるとそこは惨状だった。
「…泥棒でも入ったんか」
相変わらずあまり整理整頓は得意じゃないらしい。
なんとなくいつもの流れで、
ちらばっている雑誌なんかを積み重ねてしまう。
「坊、いつもすんまへん〜」
と少しも申し訳なさそうにベッドに座ったまま笑う志摩に
「ほんとずぼらやなお前は」
と呆れ返って言い放つ。
こうやって俺がやるからこいつは片付けないのか?とも思いつつ、
性分だから仕方ない、気になるし。
どさ、と雑誌の山の上に数冊漫画を勢いよく置くと、
ぶぅん、と背後から音がする。
下にテレビのリモコンが隠れていたらしい。
「あ。」
志摩は苦笑いする。
うっかり入った電源で、テレビの画面にとんでもないものが映った。
裸の男女、つまり、AVというヤツ。
「…おい」
おそらく再生中の突然の来客におどろいて、
とりあえず一時停止して電源を落としていたのだろう。
いろいろと言ってやりたい言葉が頭の中に浮かびすぎて、
何から言ってやれば良いのかわらかない。
「堪忍!リモコンください」
ちょっと決まり悪そうに言うのがなんだか頭にきて、
投げつけて渡そうとすれば
「あ、投げると電池抜けるからあきまへん〜!」
と慌てて言われて、舌打ちしつつ手渡しする。
…それがいけなかった。
手首をつかまれてそのまま引き込まれる。
自分だって鍛えているが、志摩はそれに加えて身体の使い方がしなやかだ。
うまく抵抗できないまま、後ろから抱きかかえられるような体勢にされる。
「離せボケっ」
ばんばんと腕を叩いて抵抗したが、
ぎゅっと抱きしめられてなんだか凄く気まずい。
傍らに落ちたリモコンに片手を伸ばした志摩は「再生」のボタンを押す。
画面の中の肌色が動き出す。
小さい音量だが、女のあえぎ声が耳に付く。
「坊、そのまんま画面見とって」
「…さっさと消せて!」
「ええから、そのまんま…俺、手伝ったるから」
その熱っぽい声に、とっさに頭の中で警鐘が鳴る。
「はっ?いらんて、ちょっ…」
ごそごそと部屋着に手をかけてくる。
抗おうとすると志摩は少し首筋に頭を摺り寄せてくる。
伝わってくるような喜色を込めて触れられると、
なんだか強く出れなくなってしまう。
「ほら、見ててって。えげつないことなってるでしょ」
確かに画面ではさっきまでと体位が変わり、
より一層視聴者側によく見えるような体勢になっている。
「ヌきどころ、ゆうやつですよね」
耳元でささやかれ、
反射的に、どくん、と心臓が波打った。
「あは、大きなった」
「やめえって、おい!」
「静かに…」
志摩の唇が、首筋から肩に触れる。
犬がなつくような仕草。
そして頚椎にいたると、かぷ、と小さく噛み付いた。
身体に言いようのない痺れが走る。
何度も持った志摩との接触で、
これがただの寒気ではなく、
自分の身体が性的に敏感になったときのそれだと、
勝呂もさすがに覚えさせられてしまっていた。
画面の中で男に身体を蹂躙され、
受け入れて我を失くしたように声を上げる女の姿を見ながら、
自分ももしかしたらあんなふうになのだろうかとつい考えてしまう。
志摩の手が自分の下肢を捕らえたまま何度も何度も動かすので、
だんだんに頭の中が痺れてうまく思考が回らない。
今視覚に入ってくる情報と、身体に直接与えられる感覚だけ。
それに加えて背後から感じる志摩の温度と、脈拍の動きと、
ときどき衝動的に背中に触れてくる志摩の唇の感触。
―やばい、イってまいそうや…
志摩の手をどかそうと掴むが、
それもまるでなんの意味もなさない。
ただ、その手に爪あとを残すだけだ。
終わりを望む本能的な欲求が身体を駆け上がっていく。
じわ、と背中に汗が噴出すのを感じた。
さらに硬度を増したのがわかったのか、志摩は煽るように言う。
「ええよ、坊がAV見ながら俺の手でイくとこ見たい」
扱く手が勢いを増す。
「あ、あっっぁっ!!!!」
食いしばっても、その衝動はくぐもった声になって漏れてしまう。
「ね、イって、ほら、」
我慢できずに溢れた先走りでぬるついた手で上下されれば、
ひたすらに心臓だけが早く、限界を求めた。
びゅく、と志摩の手の中に吐き出す。
何度か身体がはねて、少しずつ頭が正常を取り戻していく。
「多…」
手をだらりと汚したまま、志摩は小さく呟いて、
「坊、こっち向いて」
と優しく言った。
振り向きざまに口を吸われ、
いろんなものを宥めるように優しく、深く口付けられる。
よくできました、と労わられているようで少しいたたまれない。
耐えられず志摩を軽く一発殴る。
笑ったまま、また唇を取られた。
なんだかもうどうでもよくなって、力を抜く。
舌が入り込んで、深く長く口付けてからゆっくりと離れていった。
画面はいつの間にかメニュー画面に戻っている。
途中から全然記憶にない。
じっとりと身体が汗ばんでいる。
いつもこうやって志摩のペースに乗せられてしまうのは、
結局自分もどこかで志摩に依存しているところがあるのだろう。
うなだれる自分とは相対して、志摩は機嫌がいい。
「おかげでしばらくエロビ見んでも良さそうです」
無邪気に言う志摩には怒る気も失せたので、あほ、とだけ呟いてやった。