授業が終わって部屋に戻ると、
机の上に一枚の文が置いてあった。
なんだろう?
指でつまみあげて表裏と眺めて、
それから開いた。
顔が真っ赤になった。
なんだろう、こんなに気恥ずかしくてやり場のない気持ちにさせられる。
いったいどんな気持ちで書いたんだ、こんなの。
「いとし苦しい 思いも尽きず 長々し夜の 鳥が鳴く」
七七七五の二十六音。
こういった、妙に粋なことをするのが、
あの無粋そうな年下の元気なあいつだというのがまた堪らない。
ふすまの外に足音を感じて、振り向くと、
同じく授業から戻ってきた伊作が入ってきた。
慌てて文を隠そうとしたが、ぐしゃっと潰した音の方が、
伊作が入るよりも遅かった。
「な〜に、それ?」
明らかな動揺が伝わってしまったせいで、
逆に伊作の興味をあおってしまった。
「い、いや、なんでもない」
そう言いながら、
なんでもない奴はこんなふうに否定をしない、と自らも冷静に感じていた。
「…恋文、かな?相手は…言わずもがな??」
ひどくにやにやとした顔つきに、うるせぇと小さく呟くことで、
否定をするのを諦めた。
「竹谷くんって筆まめなの?文なんて書きそうもないのにねぇ」
くすくすと笑う。
「だから余計に恥ずかしいんだよ」
本当はもう一回読み返したかった文を、押入れにしまいながらそう言った。
「留、嬉しそうな顔してるよ」
にぃ、と嫌味な笑顔を浮かべて、委員会に行ってくるね、と足早に部屋を出て行った。
一人部屋に残って、文机に向かう。
何か書こうとして、何から書いたらいいか思いつかなくて
墨がぽたりと白い紙ににじんだ。
左手で紙をぐしゃりとして、立ち上がった。
乾ききっていない墨が指先を汚す。
それを袴で拭って、廊下へと出た。
俺にはこんな文は書けないし、この距離ならば会うが早い。
人知れずそっと口はしだけでそんな自分を笑って、
床板を踏みしめて向かった。
行き先は、5年長屋ではなく、飼育小屋。
なぜか、そっちの方が会えるような気がしたから。
そしてたぶんその予感があたっているだろう、という確信に、少しだけ自嘲気味に笑った。