名前を呼ばれることにいちいち心を痛めなくなったのはいつからだろう。
馬鹿だなぁ、私ならそんな顔をさせたりしないのに。
馬鹿だなぁ、私ならずっと笑わせていられるのに。
お前を大事にしないあいつが私は嫌いなんだ。
―でも、あれでいていいところもあるだろう?
そんなふうに言わせてしまうあいつが私は許せない。
どうしてそんなに幸せそうな顔をするんだ、と思うけれど、
そんなことは言えないから、
そうか、って返すくらいしかできなくなる。
―留三郎くらい、あいつも優しければいいのにね。
今となってはこの言葉を聞いた瞬間が、
あいつに勝ったと一番思える瞬間だ。
馬鹿め、見たか。
あいつを殴るときは、そういうのも全部ひっくるめて、
受け止めやがれ
って思っているんだ。
だけど、あいつといるときのお前の笑顔。
なんだろうな、あれ、種類が違うよな。
いつも笑顔のお前だけれど、あの笑顔はいつもと違う。
幸せと嬉しいの混ざった顔。
悔しいけど。
お前のそういう笑顔が嫌いじゃない。
せめてお前をちゃんと大事にできるような奴になってもらえるまで、
おかしいことはおかしいって言ってやるからな。
あいにく、そういう意味であいつと面と向かって拳をあわせられるのは
私くらいのもんだろうから。
だから、どうか、どうか。
私は願う。
お前はずっと幸せに笑っていてほしい、と。
いつでも健やかにいて、ただ屈託なく名前を呼んでくれる、
それだけでいいから。